東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1140号 判決
1 控訴人が被控訴組合(註、漁業協同組合)の準組合員であつたことは前認定のとおりである。そして、
〔証拠〕によると、昭和二八年四月一〇日、被控訴組合の臨時総会が開催され、控訴人について被控訴組合定款第一四条第一項第二、第三号所定の事由があるので控訴人を除名する旨の議決がされ、同月一一日頃控訴人に対し、除名通知がされたこと、右定款は、第一四条第一項第二号において、組合員が「出資の払込、経費の支払其の他組合に対する義務の履行を怠つたとき」を、同条同項第三号において、組合員が「組合の事業を妨げる行為をしたとき」を、それぞれ組合員の除名理由として規定していることを認めることができ、右認定を妨げる証拠はない。
2 そこで、控訴人について定款第一四条第一項第二、第三号所定の除名理由に該当する行為があつたかどうかを判断する。
(イ)被控訴人は、控訴人が漁獲物購入代金の支払をしなかつたことは定款第一四条第一項第二号所定の「組合に対する義務の履行を怠つた」場合に当ると主張する。
しかしながら、定款第一四条第一項第二号にいう「其の他組合に対する義務」は、組合員がその資格において負担する義務であつて、出資の払込や経費の支払に準ずる性質の給付を目的とするものを指称すると解するのが相当であるところ、魚商が被控訴組合に対して負担する漁獲物購入代金債務は組合員たる立場を離れ、第三者の立場において負担する債務であるから、定款第一四条第一項第二号にいう「其の他組合に対する義務」には当らない。したがつて、控訴人が前記二七七万二六九八円の購入代金を支払わなかつたことをもつて定款第一四条第一項第二号所定の除名理由に該当するという被控訴人の主張は失当とすべきである。
(ロ)被控訴人は、控訴人が前記購入代金を支払わなかつたことは定款第一四条第一項第三号所定の「組合の事業を妨げる行為をした」場合に当ると主張し、これに対し、控訴人は、「右組合の事業を妨げる行為」とは組合の事業そのものを直接に妨害する行為をいい、前記購入代金の不払などは右の行為に当らないと争う。
おもうに、定款第一四条第一項第三号が、組合員が「組合の事業を妨げる行為をしたとき」、当該組合員を除名することができるとした趣旨は、組合の構成員でありながら組合の事業の遂行を妨害し、組合の目的を否定するような行為に出た者に対し、その統制力にもとづき、除名の制裁をもつて対処することができるとしたものであることが明らかであり、このような規定の趣旨に鑑み、ことを合目的に考えると、「組合の事業を妨げる行為」とは、控訴人が主張するような組合の事業そのものを直接に妨害する行為のみならず、組合の事業の遂行を間接に妨害する行為をも含むものと解するのが相当である。
被控訴組合のような漁業協同組合は、一定の加入資格のあるものが当然にその構成員となる団体(当然加入団体)あるいはその構成員となることを強制される団体(強制加入団体)とは異なり、なんびとも加入、脱退が自由である任意加入団体であることを特質とするものであるから、その構成員の除名事由をしかく厳格に解することは、右のような団体としての特質に背くものというべきである。本件において、当審における被控訴組合代表者小宮卯之吉本人尋問の結果(第二回)によると、被控訴組合は、漁民である組合員の委託にもとづいて販売する漁獲物の販売代金から収納する手数料を組合運営資金に充てるほかは、組合員に対し格別に経費の賦課(組合法第二二条第一項)をしていないため、魚商が漁獲物購入代金を支払わず、それが多額に達する場合には、組合の事業運営に支障をきたす実情にあつたことが認められるから(右認定を妨げる証拠はない。)、前記のように控訴人が二七七万余円の購入代金を支払わなかつたことは、間接に組合の事業を妨げたものとすることができる。
控訴人は、控訴人の購入代金の不払は被控訴組合の側に存する原因にもとづくものであるから、右購入代金の不払を「組合の事業を妨げる行為」とすることはできないと主張するが、控訴人の右主張事実を認めることができる証拠はない。
(ハ)これに加え、原審および当審における被控訴組合代表者小宮卯之吉本人尋問の結果(原審は第一回、当審は第二回)に本件弁論の全趣旨をあわせると、控訴人は昭和二八年四月一日頃から、被控訴組合に属する組合員中懇意な者一二、三名から魚獲物を買い集めて東京方面の取引先に出荷し、これにより被控訴組合が当該漁獲物について委託販売を行う機会を失わせ、延いては、右漁獲物を正規のルートに乗せたならば被控訴組合が得べかりし委託販売手数料を失わせたことが認められるところ、控訴人の右行為が直接に被控訴組合の事業を妨げる行為に当ることは明らかである。控訴人は、右出荷の点について、漁獲物を買い集めて出荷した主体は控訴人ではないと主張するが、右認定を覆えして控訴人の主張事実を認めることができる証拠はない。
(ニ)したがつて、被控訴組合の総会がした控訴人の除名議決は定款第一四条第一項第三号所定の除名理由にもとづく有効な議決であるとすべきである。
(新村 坂井 蕪山)